損害賠償には上限があるのか?民法上のポイントを弁護士が解説_Q&A編

「損害賠償には上限があるのか?民法上のポイントを弁護士が解説」の記事で、損害賠償について、民法のルールと契約で定める際のポイントをご紹介しました。損害賠償についてより具体的なことを知りたいという方もいらっしゃるかと思います。そこで、本記事では、Q&A式で、より具体的な内容をご紹介いたします。

Contents

損害賠償額の立証について

Q1:損害賠償における損害の項目には、どのようなものがありますか? 

損害賠償を請求する際、損害が発生したことやその損害額については、損害賠償を請求する側が立証する必要があります。ここで、そもそも、損害として請求できる項目には、どのようなものがあるのでしょうか。

法学の世界では、損害は、「債務不履行がなかったとしたら、債権者(=損害賠償を請求する側)が置かれたであろう利益状態と、債務不履行がされたために債権者が置かれている利益状態との差を金額で表現したもの」と考えられています。この差額を金額で表現するために、個別の損害項目を立てて、項目後の金額を出し、それを積み上げて損害額を計算していきます。

個別の損害項目の具体例は以下の通りです。

業務委託契約の業務が期限内に履行されなかった場合

・委託者が顧客に支払った損害賠償金

・債務が履行されるまで他の手段でカバーするために使った費用

・債務が履行されるまで休業せざるを得なかったのであれば休業損害

などなど

売買契約の目的物が引き渡されなかった場合

・代替物を調達するのにかかった費用

・転売して得られたはずの利益

などなど

Q2:契約で損害賠償責任の範囲を定めることができるとのことですが、実際には、どのような損害賠償条項が考えられますか?

「損害賠償には上限があるのか?民法上のポイントを弁護士が解説」の記事で、民法では、損害賠償の範囲は、債務不履行によって通常生ずべき損害と債務者がその事情を予見することができた特別の事情によって生じた損害と定められているところ、損害賠償の範囲についても、民法とは異なる範囲を契約で定めることができるとご紹介しました。範囲の定め方としては、以下のようなものがあり、①→④の順番で損害賠償の範囲が狭くなります。すなわち、①がもっとも債権者(損害賠償を請求する側)に有利で、④がもっとも債務者(損害賠償を請求される側)に有利です。

①相手方が被った一切の損害を賠償する

②債務不履行によって通常生ずべき損害と債務者がその事情を予見することができた特別の事情によって生じた損害を賠償する(民法と同じ)

③現実に発生した通常損害を賠償する

④現実に発生した通常かつ直接の損害を賠償する

Q3:Q2の①~④について、具体的にどのような違いがありますか?

Q2の①~④の違いについて、Q1でご説明した「売買契約の目的物が引き渡されなかった場合」の例で考えてみると、以下のようになります。

①の場合

「①相手方が被った一切の損害を賠償する」という定め方では、目的物が引き渡されなかったことで買主に生じたすべての損害(代替物を調達するのにかかった費用や転売して得られたはずの利益などすべて)が賠償の対象となります。

②の場合

「②債務不履行によって通常生ずべき損害と債務者がその事情を予見することができた特別の事情によって生じた損害を賠償する」という定め方では、目的物が引き渡さなかったことによって通常生じる損害と、売主がその事情を予見することができた特別の事情によって生じた特別損害が賠償の対象となります(民法どおり)。例えば、代替物を調達するのにかかった費用や、転売を目的とした売買の場合において転売して得られたはずの利益は、通常生じる損害になります。ただし、転売して得られたはずの利益については、債務不履行の時から損害賠償を請求するまでの間に転売価格が著しく値上がりしたような場合は、値上がり分については特別損害と考えられる場合が多いです。

③の場合

「③現実に発生した通常損害を賠償する」という定め方では、目的物が引き渡されなかったことによって、買主に現実に発生した通常損害だけが賠償の対象となります。例えば、目的物が引き渡されなかった場合に、目的物を転売して得られたはずの利益については、賠償の対象となるのは債務不履行時に転売していれば得られたはずの利益にとどまり、値上がり分については賠償の対象とならないと考えられます。

④の場合

「④現実に発生した通常かつ直接の損害を賠償する」という定め方では、目的物が引き渡されなかったことによって、買主に現実に発生した通常損害かつ直接損害だけが賠償の対象となります。例えば、目的物が引き渡されなかったために、買主が代替物を調達した場合の調達費用は賠償の対象となりますが、目的物を転売して得られたはずの利益については、直接損害ではないため、賠償の対象ではないと考えられます。

Q4:損害が発生したことやその損害額について、損害賠償を請求する側が立証しなければならないが、立証が難しいということですが、なぜ立証が難しいのですか?

損害賠償を請求する側は、相手方の債務不履行によって実際に損害が発生し、それが債務不履行と因果関係があること、損害額について立証しなければなりません。

損害の発生については、具体的な損害額を客観的資料により証明しなければなりません。例えば、売買契約の目的物が納入されず、代替物を調達したような場合は、代替品が必要であったこと、その調達価格を立証することになります。このような場合、比較的損害額も明確ですし、債務不履行と損害の繋がりも想像しやすく、立証が容易です。しかし、業務委託契約の履行が遅れて、委託者の業務や委託者の顧客に損害を与えたような場合は、委託者が被った損害や、委託者の顧客に損害を与えないために委託者が支出した費用、委託者が顧客に支払った損害賠償金などをひとつひとつ立証していくことになります。このような場合は、「そもそも損害額はいくらなのか」「その損害は、本当に業務委託契約の履行が遅れたために発生したのか(他の要因も絡んでいるのではないか)」といった点が問題となり、立証が難しい場合が多いです。

損害賠償請求の要件について

Q5:民法では、「債務者の責めに帰すべき事由がある場合」、すなわち、債務者に故意・過失・信義則上これと同視すべき事由がある場合に損害賠償責任が発生するものの、契約で「故意または重過失がある場合に限り、損害賠償責任を負う」と定められる場合があると聞きました。故意、過失、重過失とは、それぞれどういう意味ですか?

故意は、「結果発生を認識しながら、それを許容して行為をすること」を指します。

過失は、「結果発生を予見することができそれを回避する義務があったにもかかわらず、これを回避する義務を怠ったこと」を指します。

重過失とは、「ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態」という意味です。

損害賠償の範囲の限定について

Q6:契約で損害賠償額の上限を定められるものの、債務者に故意または重過失が認められる場合には、裁判にまで至った場合、損害賠償額の上限が無効と判断される可能性もあるということですが、実際に損害賠償額の上限が無効であると判断した裁判例はありますか?

損害賠償額の上限が無効となり得ると判断した裁判例としては、東京地判平成25年7月24日があります。本裁判例は、X社(事業会社)に対し、Y社が事業の存続を目的とするアドバイスを行うアドバイザリー契約を締結していたところ、Y社のアドバイスが著しく不適切で債務不履行にあたるとされた事案です。X社とY社の間のアドバイザリー契約には「損害賠償の請求額は合計で業務委託報酬相当額まで」として、損害賠償額の上限が定められていました。これに対し、裁判所は、「本件アドバイザリー契約は、受託者(筆者注:Y社)が事業再生の場面において助言を提供するに当たり、損害賠償額が巨額になる可能性があることから、その賠償額を業務委託報酬の範囲に限定するというものであり、その趣旨に照らすと、本件責任制限合意(筆者注:損害賠償額の上限を定める合意)は、被告に故意または重大な過失がある場合には適用されないものと解するのが相当である。」として、Y社に故意または重過失がある場合には、損害賠償額の上限を定める合意が適用されないことを認めています。本裁判例の結論としては、Y社には故意・重過失があることは認めませんでしたが、実際のケースで故意・重過失があるような場合には、損害賠償額の上限を定める合意が無効と判断される可能性が示されています。

弁護士に相談するメリット

上述のとおり、将来の紛争を見据えて損害賠償条項を適切に定めるには、法律的な考え方や他事例の知識が必要となります。しかし、ベンチャー・スタートアップ企業は、ノウハウの蓄積も少なく、難しい場合もあるかと思います。弁護士に相談することで、豊富な知識・経験をもとに、適切な損害賠償条項を選択することができます。

ベンチャー法務については当事務所までご相談ください

当事務所では、ベンチャー・スタートアップ法務に精通した弁護士が、損害賠償条項を含め契約書の作成をサポートさせていただきます。ぜひ一度、当事務所までご相談ください。

この記事の監修者

虎ノ門東京法律事務所 弁護士

中沢 信介

東京弁護士会所属。都内法律事務所パートナー弁護士を経て虎ノ門東京法律事務所参画。台東区法曹会副幹事長兼弁護士実務研究会の代表に就任しており、法律相談担当も務める。

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