株式は、株式会社の出資者である地位のことをいいます。そして、これを保有する者を株主といい、株式会社の実質的所有者のことを指します。実質的所有者という呼び名なの通り株主は株式会社に対して非常に大きな影響力を持っています。そのため、ベンチャー・スタートアップ、中小企業の運営にとって株式が適切な人物に適切な状態で株式を保有することは非常に重要なことです。
そこで、本記事では、株主が行使できる権利とともに、様々な形で出てくる株主が関係する契約書・書面、具体的には株主総会書面、株主間契約、株式譲渡契約についてベンチャー・スタートアップ法務に精通した弁護士が整理します。
株主が株主総会においてできること
先ほど述べたとおり、株主は会社の実質的な所有者です。そのため、株主は、株式会社の構成員として、会社の重要なことを決める立場にあります。株主が、取締役会非設置会社場合には、株主の過半数が出席し、その過半数で議決ができる普通決議でかなり多くの会社にとって重要な事項を決議することができます。具体的には以下の通りです。
取締役・監査役・会計参与・会計監査人の選任・解任
代表取締役の選定
資本金・準備金額の減少
計算書類の承認
剰余金の配当
取締役・監査役・会計参与の報酬等の決定
取締役の競業取引・利益相反取引の承認
この他にも、特別決議や特殊決議という、出席数と決議要件が加重された決議において、譲渡制限株式の譲渡承認の決定、自己株式の取得に関する事項の決定、株式の併合、募集株式の発行等における募集事項の決定、定款の変更、そして、会社の解散などについて決議することができます。
株主総会決議に関する書類
上記のように、重要事項の決定を行う株主総会決議に関連して必要となる書類には以下のものがあります。
①株主総会招集通知
②株主総会議事録
③株主総会委任状
① 株主総会招集通知
株主総会を招集するために株主に対して送付する書類です。株主総会の日時および場所、株主総会の目的事項、株主総会に出席しない株主に書面による議決権行使を認めるときは、その旨などを記載します。取締役が招集通知を発送します。
② 株主総会議事録
株主総会が開催され、報告・決議をした事項を記載する書面です。記載事項は、株主総会が開催された日時および場所、株主総会の議事の経過の要領およびその結果、株主総会に出席した取締役らの氏名、株主総会の議長、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名などです。取締役が作成します。当該株主総会の日から10年間その議事録を本店に備え置かなければなりません。
③ 株主総会委任状
株主総会委任状とは、株主が株主総会に、自分の代わりに代理人を、出席させて議決権の行使を任せるために必要な文書です。
総会実施日に株主自身に予定があったり、総会実施場所が遠方だったりする場合に利用されたりします。
これらは、株主総会ごとに作成することが必要で、「今後開催される全ての総会の決議事項に関する議決権行使について委任します。」などといった包括的な委任状を作成することはできません。
その他の株主が関わる書面
①株主間契約書
株式会社をよい状態のまま運営していくためには、株式を保有する株主の適切な意思決定が必要不可欠です。株主が複数いるような場合にはその株主間でルールが必要な場合あります。そのような場合に締結されるのが株主間契約になります。
具体的なケースとしては、①株主が決める重要なことを会社法のルールと異なる形で決める必要がある場合(会社法上、役員の選任には過半数の議決権が必要だが、過半数の議決権を持たない株主にも役員の選任を可能とさせる場合)、②株式の譲渡について制限等をかける必要性がある場合などが想定されています。
ジョイントベンチャー(複数の企業が共同出資を行い、新会社や新規事業を立ち上げること)の場合によく活用されることになります。
ジョイントベンチャーの場合には、各出資者、特に少数派の株主(過半数を有しない株主)であっても株式会社の運営に対し影響力を行使したいと考えるのが通常であり、そのためには、会社法上のルールの変更が必要となります。また、株主の譲渡は、合弁事業の終了になりえるため、その可否や手続きについて詳細な規定を設けておく必要性が高いといえます。
②株式譲渡契約書
株式譲渡契約書は、株主間で譲渡する場合に用いられます。会社法上、株式を株主間で譲渡することは基本的に自由なのですが、中小企業の場合には、定款で譲渡制限を定めており、株式の譲渡には会社の承諾が必要な場合がほとんどです。これは現在の株主と全く異なる意向の株主が自由に会社の支配権を手に入れることができるとなると、会社が混乱するため、それを防止することが目的です。
この株式譲渡契約書は、基本的には売買契約や贈与契約になりますので、当事者、譲渡代金、譲渡株式数、支払い方法、支払い時期などを特定した記載が必要になります。さらに、株式という譲渡物の特性上、会社に対し名義書き換え請求を行うことや表面保証(譲渡人が当該株を保有していることを保証すること)などを条項として入れるのが一般的です。
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