労務管理とは、一般に、従業員の労働に関連する事項を管理する業務を指します。従業員を雇用している場合、作成すべき契約書や書面は多いものですが、全てに対応できているか不安な経営者の方も多いのではないでしょうか。しかし、労務管理に関する法令違反や従業員からのクレームは、経営に大きなダメージを引き起こしてしまうことがあります。
本記事では、労務管理に関わる契約書や書面について、ベンチャー・スタートアップの労働法務に精通した弁護士が解説します。
労務管理に関わる契約書・書面
雇用契約書
使用者と労働者の雇用契約は、労働契約を締結することによって始まります。労働契約とは、労働者が使用者に対して労働に従事することを約束し、使用者は労働者に対して報酬を支払うことを約束する契約のことです。この労働契約を示す書類が雇用契約書です。
法律上、雇用契約は書面がなくても成立するため、必ず雇用契約書を作成しなければいけないわけではありません。ただし、次にご説明する労働条件通知書と雇用契約書を一つにまとめる場合は、労働条件通知書のルールに従い書面で作成することが必要です。
労働条件通知書
労働契約を結ぶにあたっては、使用者は労働者に対して、賃金・労働時間などの労働条件を必ず明示しなければなりません。さらに、特に重要な次の6項目については、労働者に対してきちんと書面を交付しなければいけません(労働基準法15条)。
①労働契約の期間
②期間の定めがある労働契約の場合は、更新についての決まり
③仕事をする場所、仕事の内容
④始業・終業の時間、残業の有無、休憩時間、休日・休暇、交代制勤務のローテーション等
⑤賃金の決定、計算・支払いの方法、締め切り・支払日の時期
⑥退職に関すること
なお、これら以外の労働契約の内容についても、使用者と労働者はできる限り書面で確認する必要があると定められています。
就業規則
職場において守られるべきルールや共通の労働条件を定めたものが就業規則です。使用者と労働者が個別に合意していない事項については、原則として就業規則が労働契約の内容になります。また、就業規則よりも不利な労働条件を個別に合意することはできません。
就業規則について、使用者が気を付けるべき事項には以下のようなものがあります。
・常時10人以上の労働者を雇っている使用者は必ず就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出なければなりません。
・就業規則には、必ず、①始業及び就業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替勤務制の場合の交替について、②賃金について、③退職について記載しなければいけません。
・就業規則の作成・変更をする際には、必ず労働者の過半数を代表する者または労働組合の意見を聴かなければなりません。
・就業規則の内容は法令や労働協約(使用者と労働組合の間で締結された労働条件等に関する合意)に反してはなりません。
・就業規則は、見やすい場所に掲示する、労働者に配布するなどの方法により周知しなければなりません。
法定三帳簿と年次有給休暇管理簿
労働者を雇用したら以下のような帳簿を整え保存しなければなりません。
①労働者名簿
・記載項目は、氏名、生年月日、履歴、性別、住所、従事する業務、雇入年月日、退職年月日及び退職の事由、死亡の年月日及び死亡の原因など
・労働者の死亡・退職・解雇の日から5年間(ただし、経過措置で「当分の間3年間」)の保存が必要
②賃金台帳
・記載項目は、氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数(深夜・休日・残業時間を含む)、基本給及び手当額、賃金控除額など
・最後の記入の日から5年間(ただし、経過措置で「当分の間3年間」)の保存が必要
③出勤簿等
・記載項目は、氏名、出勤日、出勤日毎の始業・終業時間、休憩時間、残業時間など
・労働者の最後の出勤日から5年間(ただし、経過措置で「当分の間3年間」)の保存が必要
④年次有給休暇管理簿
・記載項目は、取得日、付与日、日数
・有給休暇を与えた期間の終わりから5年間(ただし、経過措置で「当分の間3年間」)の保存が必要
36(さぶろく)協定
法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)を超えて労働者を働かせる場合には、あらかじめ労働者の過半数を代表する者または労働組合との間に、時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出なければいけません。
本記事では、労務管理に関わる契約書や書面について、ご紹介しました。もっとも、契約書や書面の作成には、専門的な知識が必要です。不安な点がある際は、弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
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